【速報】ガンマ線からゲノム編集へ? 「照射ジャガイモ」に終止符!   

 食品への放射線照射は、食品衛生法で禁止されています。しかし、「特別に定めた場合」はよいと1972年に発芽防止のためジャガイモ(馬鈴薯)への照射が許可され、1974年からガンマ線を照射した「照射ジャガイモ」(芽どめじゃが)が製造・出荷されてきました。その照射ジャガイモが、このほど、すでに製造を終止しているとのニュースが入りました!しかし、喜ばしい反面、「照射ジャガイモ」から「ゲノム編集」技術への移行が危惧されます。

 この問題の背景と、そしてこれからについて、共同代表の久保田裕子が報告します。

------------------------------------
ガンマ線からゲノム編集へ? 「照射ジャガイモ」に終止符!
  
 「原子力の平和利用」の「農業利用」は、二つの技術を生んだ。一つは、「放射線育種」、もう一つは「食品照射」である。
 「放射線育種」は、放射線(ガンマ線、近年はイオンビームなど)を種子に当てて人為的な突然変異を誘発させ、その中から農業に有用な形質(たとえば、稲の丈が短い、寒さに強いなど)を選んで戻し交配を続け、新品種を作出する。
 他方、「食品照射」は、放射線のうち特に透過力の強いガンマ線を食品保存段階で当てて、食品の殺菌・殺虫、ジャガイモでは、発芽細胞を損傷させて発芽阻止をする。いずれも、日本では1960年代から本格的に国策として推進されてきた。 

 「食品照射」は1967年、「原子炉の多目的利用」事業の一環として、当初計画7品目(ジャガイモ、タマネギ、米、小麦、水産練り製品、ウインナーソーセージ、みかん)の照射食品を目標に国・国の関係研究機関・大学などの大がかりな開発研究が始まった。そして最初のジャガイモの発芽防止に関する試験研究報告が科学技術庁(当時)に提出され、厚生省(当時)が食品衛生調査会(当時)に諮問して、1972年、食品衛生法一部改正で、「食品の製造・調理、保存に放射線を使用してはならない」と原則全面禁止にした上で、「ただし、特別に定めた場合」はよいと、発芽防止のためにジャガイモに放射線を照射することを許可したのである。
 
 1974年、国(農林省)の補助事業で、北海道の士幌町(しほろちょう)農協に建造された食品照射施設・アイソトープ(コバルト)照射センターが稼働し、世界で初めてのガンマ線で発芽阻止をした「照射ジャガイモ」の出荷が始まった。
 補助事業の目的は、春先の「端境期」(はざかいき)に品薄になり価格が高くなるので、その時期に保存のきく照射ジャガイモを出荷して、消費者にとっての価格を抑えるため、というものだった。当初は年間1万~2万トンの出荷をねらっていた。

 それから50年。
 士幌町農協の照射ジャガイモ(「芽どめじゃが」)は出荷をすでにやめ、照射施設は取り壊し中であることが明らかになった。国内唯一の食品照射施設は解体され、照射ジャガイモに終止符が打たれた。
 このかん、当初計画7品目のジャガイモ以外(タマネギ、米、小麦、水産練り製品、ウインナーソーセージ、みかん)をはじめ、スパイス、牛肉の生レバーが実用化候補に挙がったが、市民・消費者・農業者・市民科学者等の粘り強く幅広い反対運動で、実用化されないできた。50年間にわたる市民運動の勝利、大きな成果といえよう。
 そもそも、食べものに放射線を照射することが邪道。有用性・安全性に確証はなく、必要性もない。ガンマ線照射は、細胞、染色体、遺伝子などに損傷を与える。それはまた、分子をイオン化し、フリーラジカルが新たな分解物や生成物を生む。中には発がん性のある物質もあり、未知の毒性をもつ物質が生じることもありえる。原子力産業の儲けのために、食べものにわざわざ放射線を照射する技術はいらない。

 もっとも、照射ジャガイモがなくなったと喜んでばかりはいられない。放射線照射による芽のでないジャガイモに代わり、ゲノム編集技術(TALEN利用)により「毒のないジャガイモ」の開発研究が、理化学研究所・大阪大学・神戸大学の共同研究で着々と進められているのだ。2021年4月からは野外の栽培実験の実験計画報告書を文部科学省に届け出て受理され、茨城県つくば市の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の面積2アールの畑で栽培が始まっている。
 放射線育種については、ガンマ線による「ガンマーフィールド」はすでに稼働を終止し、2022年度末(2023年3月)に屋外放射線育種場は廃止された。その後は、より強烈なイオンビーム(加速器)利用へ。他方、照射食品については、士幌町農協のガンマ線による食品照射の「照射ジャガイモ」の時代は終わり、ゲノム編集による「毒のないジャガイモ」へと移行していくのではないか。
 
 なお、食品照射には、それ自体の問題は残っている。そこで、次の二つの集会を企画している。この50年におよび照射食品反対運動を振り返り、照射食品の問題をあらためて確認した上で、国内・国外に対し、照射食品はいらない!を呼びかけましょう。

=========================== 
 照射食品反対連絡会が二つの集会を計画

 1 【照射食品講演会】9月11日(月)
「誰も 放射線を照射したジャガイモを 食べたくない!―反対運動50 年とこれから」
日時:2023 年 9 月11 日(月)午前10 時3 0 分~12 時
場所:主婦会館プラザエフ 3 階 主婦連合会会議室(JR 四ツ谷駅麴町口すぐ)/オンライン 併用
内容:報告 里見 宏(健康情報研究センター)、久保田 裕子(日本有機農業研究会)
参加費:無料
【申込みフォーム】(10月集会の賛同団体申込みを含む)
https://forms.gle/4Gh5mMBcqeevMbbg6


2 【照射食品反対 院内集会】10月31日(火)
「食品への放射線照射に終止符を! ―日本の照射ジャガイモを止めた活動50年とこれからの課題」

日時:2023年10月31日 午後1時30分~4時30分
場所:衆議院第1議員会館 地下1階第3会議室(千代田区永田町2-1-1、官邸寄り)/オンライン併用(詳細未定)                    


【問合せ先】
〒169 0051 東京都新宿区西早稲田1 9 19 207
日本消費者連盟気付
Tel:03-5155-4765/Fax:03-5155-4767
E メール:sshrk09@gmail.com
https://sites.google.com/site/noshousya


図『みどりの食料システム戦略・参考資料』(農林水産省)(同戦略は、2021年5月閣議決定)


関連記事

この記事のハッシュタグ から関連する記事を表示しています。

【NEWS!】ゲノム編集タマゴの臨床試験がまもなく開始される

【NEWS!】欧州議会、ゲノム編集食品表示義務を可決、日本も変わる必要あり

「有機農業の歴史・法制化の過程」の講演を聞いた感想

写真は鼻にとまるミツバチ。「養蜂、自然栽培に関わるものからみた「あきたこまちR」」

養蜂、自然栽培に関わるものからみた「あきたこまちR」

特集:遺伝子組み換えユーカリを止めるためにブラジルへ(その1)印鑰 智哉/ 写真はブラジルで植林されたユーカリを見上げた景色

《連載》遺伝子組み換えユーカリを止めるためにブラジルへ(その1)

竜宮城と秘密養殖場-宮津ツアーリポート

最新記事

カテゴリー

アーカイブ

ハッシュタグ

OK$B%7!<%I%&%'%V%P%J!<(B

ページの先頭へ