【NEWS!】欧州議会、ゲノム編集食品表示義務を可決、日本も変わる必要あり

 2月7日、欧州議会はゲノム編集生物を従来の遺伝子組み換え生物と同様に規制する必要があるという欧州裁判所の採決を覆して、安全審査ぬきの流通を認めるという案を承認しました⁽¹⁾。これはゲノム編集作物の栽培を進めたいという遺伝子組み換え企業が大金を投じたロビーの結果と言わざるを得ず、EU地域の市民団体、農民団体、環境団体から大きな非難の声が上がっています。
 これまで世界でのゲノム編集作物の栽培はEUの規制が大きな歯止めになってきました。従来の遺伝子組み換え作物は2015年以降、頭打ちとなりました。遺伝子組み換え企業は遺伝子組み換え生物に課される規制こそがその頭打ちの原因と考えていましたので、ゲノム編集食品も従来の遺伝子組み換え食品と同様に規制するのであれば、同じ運命になってしまう、ということで、規制させないことを各国政府に求め、米国や日本ではそうした政策を決定させていますが、EUが規制したままだと、大規模生産しても自由に輸出ができません。だから遺伝子組み換え企業はEUの政策を変えさせることにロビー活動を集中させてきたのです。

 それではこの決定で、EUでもゲノム編集食品がすぐに流通始めることになるでしょうか? いや、それには時間がかかると考えられます。というのも今後は欧州理事会、欧州委員会、欧州議会の間で最終的な合意が確認されなければならないのですが、その合意を得るには相当困難であることが指摘されています。その上に、今年は6月に欧州議会選挙が入っており、その間はその合意に向けたプロセスは動かないだろうと言われています。
 なぜ合意が困難であるかというと、ゲノム編集食品の定義自身が合意されていないのです。ここで「ゲノム編集」とはNGTs(New Genomic Technologies、新ゲノム技術)という名前が付けられています。NGTsによる食品とは一言で言えばゲノム編集食品ですが、何を持ってゲノム編集生物(食品)とみなすか、EUでは変更された塩基の数などによって細かく定義しました。しかし、この定義が科学的でないとして、フランスやドイツの政府機関からも反対が表明されている状況なのです。
 しかし、以前は新しい遺伝子操作技術によって作られたゲノム編集生物(New GMO)は従来の遺伝子組み換え生物(GMO)と同様に規制すべきという方針が覆されたことは大きな問題です。欧州議会選挙後、ゲノム編集食品の流通に向け、制度作りが始まる可能性が大です。そうなれば、これまであまり動いてこなかったゲノム編集市場が一気に動き出すかもしれません。

 しかし、EU市民はこのロビー活動に効果的に反撃もして、大きな成果も上げています。それが何かというと、欧州議会は同時に、ゲノム編集食品には表示を義務付けるという法案も同時に可決させているのです⁽²⁾。同時に有機農業ではゲノム編集生物の使用を禁止することや、ゲノム編集生物に特許を認めない方針も確認されました。
 表示もぬきにゲノム編集食品を流通させたいと思っていたバイオテクノロジー企業からしたら大きな痛手になったに違いありません。しかし、表示させれば流通させてもいいかというと、そうはなりません。ゲノム編集作物の栽培が始まってしまったら、従来の作物と交雑する危険がありますし、そもそも食品としての安全性、環境に与える影響などが審査されないものが栽培されることのリスクは避けられなくなるからです。それに反対する行動は今後も続くことでしょう。

 そして、この表示義務の決定は日本にも大きな影響を与えざるをえません。つまりEUにはゲノム編集食品は表示しなければ輸出ができなくなるからです。日本ではゲノム編集食品は表示なしに流通させても構わないことになっていますが、このままではEUには輸出できなくなります。だから輸出向けには表示が否が応でも求められることになるでしょう。でもEUに輸出する時に表示するのであれば、国内でも表示が可能だということになるはずです。

 日本政府はゲノム編集食品と自然な食品は検出方法がない、だから表示義務が課せないと言うのですが、トレーサビリティを確認すること(社会的検証)によって表示をすることは可能です。また、ゲノム編集をした企業が情報公開することで、検出方法を確立することは可能であると科学者も言っており、どちらの面からもゲノム編集食品の表示制度は作ることができます。

 ゲノム編集食品は有機農業では使えないという方針がEUでも確認されました(これまでカナダでも確認されています)。でも、日本ではタネを含むゲノム編集食品に表示制度がないので、有機農家の方も知らないうちにゲノム編集されたタネを使ってしまうかもしれません。もし、日本が現在の制度のままであれば、日本の有機農業は国際的な信頼を失い、輸出もできなくなりかねません。だから、やはりゲノム編集食品には表示が不可欠なのです。その原点に帰って、日本でもゲノム編集食品に表示を求めていく必要があります。

 昨年10月に静岡県議会は市民の求めに応じて、国にゲノム編集食品の表示を求める意見書を採択しました⁽³⁾。今、それが全国の地方自治体に広がりつつあります。ぜひ、今こそゲノム編集食品に表示義務を求めましょう。

参考資料:
(1) 欧州議会が「ゲノム編集」生物の規制緩和案を承認、でも終わりの始まりか
https://project.inyaku.net/archives/10047

(2) EUでの「ゲノム編集」規制は日本にとって何を意味するか?
https://project.inyaku.net/archives/10059

(3) 静岡県議会「ゲノム編集技術応用食品の表示等を含めた消費者への 情報提供の在り方について検討を求める意見書」
https://www.pref.shizuoka.jp/kensei/kengikai/gikaiugoki/1003743/1055141/1057318.html#group2


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